胸に飼う鬼















私の体はあの人に預けてから何一つ変わってはいません。

何故でしょうか、何故でしょうか。

変わらないのです。

夜毎愛されているのに変わらないのです。

私には少年であった記憶がありません。

清童であった記憶もありません。

私の体はあなたに抱かれても少しも変わらないのです。

「いつまでも駄目だな」とひと言、

あなたはつまらなさそうに言います。

愛しい人、このような私の体を恥じて泣けども、

私はあなたを満足させられないのでしょうか。

ああ、私は悪い犬です。




愛しい人よ、

けれども私は怖いのです。

私を優しくなだめる腕と、

私を突き殺すように鋭く刺し貫くものとが、

同じ肉であることに、ひどく戸惑うのです。

私が本当に何の役にも立たないものなのだと、

いつかあなたに知れたとき、

あなたは私を殺すでしょうか。

私を助けたその同じ手でいつか、

私をバラバラにしてしまうのでしょうか。

ああ、今は傷ついた私を優しく撫でているその大きな手が、

豹変し、

私の頬をはり、

私の首を絞め、

私の腕をはずし、

私の足をへし折って、

私を壊してしまうのではないか。

私はその疑惑を捨て去れないまま、

あなたに抱かれながら身をかたくするのです。

そうして私はひっそりと、

胸に鬼を飼います。

爪を研ぎ、

牙を生やし、

私は醜い鬼を胸に飼います。

そうしなければ私の胸は、

あなたの重みに圧し潰されてしまう。

ああ、

あなたひとりに噛みつくことが出来たなら、

私は世界を敵に回せる。

胸に飼う鬼は、あなたの重みに比例して、

そんなにも大きく育とうとする。

鬼の重みがあなたを超えたとき、

私は本当に鬼になってしまうでしょう。




願わくば、あなたがこの部屋にいるときに、

私が鬼になってしまわぬように。


けれどもその瞬間まで、

あなたのそばに。


















 

 

 

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