半身
哀れな哀れな名も無きものよ、
お前の吐息で覚醒するよ。
お前の肌をかきむしる、
飛散する赤ひ透明な細胞、
しつとりとしてゐる其の傷口、
なんといふ恍惚なのだらう。
しかし私は更なる恍惚を待つてゐる。
私たちにそれが訪れる瞬間を。
私はお前と交はる、私自身であるお前と。
さう、お前は私の片割れなのだ。
私の失つた半身、
私の可愛ひ半身、
私になきものを補ふ半身、
其れを私はかうして抱くのだ。
身を裂かれる不安はもうない。
私は完成する。絶対的な一個体として。
なんといふ恍惚。なんといふ罪。
たといお前が私を異物と見做さうと、
私はお前にしつかりとうずもれる。
かうしていやうか、永久に。
恍惚、永遠の。
性の闇は神秘を失ひ堕落した。
ならば残された唯一の神秘、其れは死だ。
しかしそれとても、ひつそり死ぬ場所など見つからぬ。
―――――――――。
考へるな何も。
お前は何も考へてはいけない。
さう何も。
お前はただ私に任せて従属するのだ。
私の可愛ひ半身よ。
お前のなみだと私の体液とでぴつたりとはりついてゐやう。
さうとも、私のいとしき半身よ。
お前に私を押し戻す力など与へられてはゐないのは、
お前が真実私の半身であるから。
お前と引き千切られ生まれ出でたが故に、
私はかうしてお前の皮膜を破り、くちづける。
二人の傷口を合はせやう。
あつらへたやうにぴつたりと合ふはずだから。
さうして開いた傷口を、
二人の破れた膚を、
再び縫ひ合はせてしまへばいい。
私のいとしき半身よ。
お前を何処へもやるものか。
漸くお前を見つけたのだから、
故に私はお前を抱く。
れん獄の奈落へ墜落する忘我を夢見乍ら、
かうして私はお前を縫ひつけ続けるのだ。
|