チョコ















 ぽたり。

 酷く熱いものが舌を焦がした、ように思った。
 悲鳴をあげ逃れようとすれば、四本の腕に囚われる。
 拘束され、自由を失った体は一糸纏わないのに、視界だけが無造作にガムテープで遮られている。

 「ちゃんと舐めろよ」

 脅されるまま従えば、熱で傷ついた舌を嘲るように、そのどろりとしたものは甘い匂いを放っていた。

 「うう」

 うなだれた側から、

 「舌を出せと言っただろ」

 たしなめるように言うのは未だ少年の気配を残した若い声。

 「わざわざおまえの好きなホワイトチョコを選んでやったんだから」

 聞き慣れた低い声が後を引き継ぐ。

 「でも、ちょっと溶かしすぎてしまってね」

 「ほら、温めすぎると固まったとき、美味くないだろう?」

 「だから熱いうちに食べなさい」

 交互に、支配者たちの声だけが聞こえる。

 わずかに明暗の変化のみをとらえる竜崎の眼球は、ガムテープとまぶたの下でせわしなく動揺する。
 声も出せないそばから、また。


 ぽたり、

 ぽたり。


 「ひっ…止めてください!」

 「全部舌でうけろって言っただろ」

 降り注ぐものに火傷を負った頬を強かに殴られ、竜崎の顔のそこかしこが痣にまみれる。床に倒れた竜崎の体を、子どもが投げ捨てた人形にそうするように、無理に起こして座らせる冷たい手。
 ずきずきと傷が痛んだ。 
 ぬるりと生温かい、ような気がする。どこか切れて出血したのかもしれない。

 それを確かめる術もなく、降り注ぐ悪意の雨から逃れようと身をよじれば、自分を拘束する縄が肌に食い込む。
 こぼれ落ちた凶器が冷えていくのがわかった。その感覚と、酷く痛む傷と、二人の支配者の声だけが、自分と外界とを繋ぐ頼りない糸。

 塞がれた視界が再び暗くなる。

 ぽたり。

 「いや、止めて、お願いです」

 頭を振っていやいやをしながら哀願する竜崎。

「ちゃんと食えって。おまえの好きな菓子だろ」

 苛ついた声は自分のそれと同じに未だ若い。

 その声に向かって哀願すれば、今度は傍らの低い声が

 「悪い子だな」

 と可笑しそうに言う。

 涙声で、許して、許してとそれだけを繰り返す竜崎。

 「そんな態度じゃ、僕たちが苛めているみたいじゃないか」

 「仕方ないよ、この子は他人様から頂いたお菓子を満足に味わうことも出来ないような子だからね」

 「はは、じゃあ…もう少し違う味わい方を教えてあげるよ、竜崎」


 ぽた。ぽた。

 ぽた。


 熱の雨はうなだれた竜崎の頭から肩、肩から胸、そして、下腹部へ。




 ぽ た 。




 「あああああ」

 視界を塞がれたままびくりと腰を震わせた竜崎の半身は既に、支配者たる二人の望むように、暴力的な刺激に応え始めていた。

 


















 

 

 

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